大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)4041号 判決

原告 高山美智子 外一名

被告 徳井喜隆

参加人 大和殖産商事株式会社

主文

一、原告らと被告との間の昭和三四年(ワ)第二九七九号本訴訟事件は、原告らの訴の取下を被告が同意したことにより終了した。

二、原告らは参加人に対し別紙目録〈省略〉記載各不動産について被告より、その所有権を取得した上昭和三二年一二月三〇日の代物弁済を原因として、参加人のために所有権移転登記手続をせよ。

三、参加人のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用中原告らに生じた分は原告の負担とし、被告に生じた分の中原告らの被告に対する昭和三四年(ワ)第二九七九号本訴訟に関して生じたものは原告らの負担とし、参加訴訟に関して生じたものは、参加人の負担とし、参加人に生じた分は、これを二分し、その一を参加人の負担とし、その余を原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告らの申立

(1)  原告らと被告との間において、別紙目録記載各不動産が原告らの所有であることを確認する。

(2)  被告は原告らに対し、別紙目録記載各不動産について大阪法務局今宮出張所昭和三一年一一月一六日受附第二四九八一号をもつて、同年七月五日の売買を原因とし、取得者を被告としてなされた所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

(3)  参加人の請求を棄却する。

(4)  原告らより被告に対する訴訟に関して生じた訴訟費用は被告の負担とし、参加によつて生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

二、被告の申立

(1)  原告らの請求を棄却する。

(2)  参加人の請求を棄却する。

(3)  原告らより被告に対する訴訟に関して生じた訴訟費用は、原告らの負担とし、参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

三、参加人の請求の趣旨

(1)  別紙目録記載各不動産は、いずれも参加人の所有であることを確認する。

(2)  被告は参加人に対し、別紙目録記載各不動産について大阪法務局今宮出張所昭和三一年一一月一六日受附第二四九八一号をもつて同年七月五日の売買を原因とし、取得者を被告としてなされた所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

(3)  原告らは、参加人に対し、別紙目録記載各不動産について、昭和三二年八月六日の相続を原因として被相続人高山静子こと高山シヅより所有権移転登記をなした上、昭和三二年一二月三〇日の代物弁済を原因として、参加人のために所有権移転登記手続をせよ。

(4)  参加により生じた費用は、原告らおよび被告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告らの請求原因、被告および参加人の主張に対する答弁

(1)  原告高山美智子は訴外亡高山シヅの長女にして、原告高山章は、その長男であるところ、右高山シヅは昭和三二年八月六日死亡したので、原告らが、その相続人として右高山シヅの権利義務を承継した。

(2)  右訴外高山シヅは生前別紙目録記載各不動産を所有していた。

(3)  よつて原告らは右訴外人の死亡に因り右各不動産の所有権を相続によつて取得した。

(4)  右各不動産には、大阪法務局今宮出張所昭和三一年一一月一六日受附第二四九八一号をもつて、同年七月五日の売買を原因とし、取得者を被告とする所有権移転登記がなされている。

(5)  右被告の取得登記は、訴外高山シヅの偽造の印鑑をもつてなされた同訴外人の意思によらないものでその原因を欠き無効である。

(6)  被告は前記各不動産に対する原告らの所有権を争つている。

(7)  よつて原告らは被告に対し、右各不動産の所有権が原告に属することの確認を求めるとともに右各不動産についてなされた被告の前記取得登記の各抹消登記手続を求めるため本訴請求におよぶ。

(8)  被告主張(3) の事実を否認する。

(9)  参加人主張の請求原因(3) の事実を認め、同(2) の事実を否認する。

二、被告の原告らおよび参加人の各主張に対する答弁並びに主張

(1)  原告ら主張の(1) (2) (4) (以上は参加人に対しても)および(6) の各事実並びに参加人主張の請求原因(3) の事実はいずれも認める。

(2)  原告ら主張(3) (5) (これらは参加人に対しても)、および参加人主張の請求原因(2) の各事実は否認する。

(3)  被告は昭和三一年七月五日、訴外高山シヅより、その所有にかかる別紙目録記載各不動産を真実買受け、その代金を支払い、前記のとおり右各不動産について、売買を原因として、右訴外人より各所有権移転登記を受けたものである。

三、参加の趣旨および理由

(1)  原告らは、被告に対し、別紙目録記載各不動産が原告らの所有であると主張して、その所有権確認と、被告の取得登記の抹消登記手続とを求めている。

(2)  然しながら、右各不動産は、参加人の所有に属するものであるから、参加人は原告らおよび被告に対し、民訴法第七一条にもとづいて当事者参加の申出をする。

四、参加人の請求原因および被告の主張に対する答弁

(1)  原告ら主張の(1) ないし(5) の事実を援用する。

(2)  参加人は昭和三二年一二月三〇日原告らより貸金債権金七〇〇、〇〇〇円の支払に代えて、別紙目録記載各不動産の給付を受けて、その所有権を取得した。

(3)  原告らおよび被告は、参加人の右各不動産に対する所有権を争つている。

(4)  よつて参加人は、原告らおよび被告に対して、右各不動産について、参加人に所有権が属することの確認を求め、被告に対しては、右各不動産についてなされた被告の前記取得登記の抹消登記手続を求め、原告らに対しては、右各不動産について、相続登記をした上、前記代物弁済を原因として所有権移転登記手続を求めるため、本参加におよぶ。

(5)  被告主張(3) の事実を否認する。

第三、証拠関係〈省略〉

第四、原告らは昭和三七年三月三日当裁判所に「昭和三四年(ワ)第二九七九号事件について原告らは、弁護士吉田一枝に対し、その訴訟代理を委任したことはない」旨の書面を提出した。

第五、原告高山美智子は昭和三四年九月二九日当裁判所に対し昭和三四年(ワ)第二九七九号事件の訴を取下げる旨の書面を提出し、被告は昭和三四年一〇月二〇日午前一〇時の第三回口頭弁論期日において右原告の訴の取下に同意する旨を陳述し、原告高山章の後見人高山美智子は昭和三五年二月四日、当裁判所に対し、昭和三四年(ワ)第二九七九号事件の原告高山章の訴を取下げる旨の書面を提出し、被告は昭和三五年三月二八日午前一〇時の第六回口頭弁論期日において右訴の取下に同意する旨を陳述し、参加人は右口頭弁論期日において、参加人の昭和三五年三月二日附の「原告らの昭和三四年(ワ)第二九七九号事件の訴の取下げには異議がある」旨の申述書を陳述した。

理由

一、先づ原告らは昭和三七年三月三日当裁判所に対し、本件中昭和三四年(ワ)第二九七九号所有権確認登記抹消請求本訴訟事件について、弁護士吉田一枝にその訴訟代理を委任をしたことはない旨の書面を提出したので、この点について調査するに、

(1)  本件記録によれば弁護士吉田一枝が原告高山美智子(昭和一四年二月三日生)の訴訟代理人となり、また原告高山章(昭和一九年三月一二日生)の後見人小松芳太郎の訴訟代理人となつて被告徳井喜隆を相手方として、本件中昭和三四年(ワ)第二九七九号本訴訟事件の訴状を昭和三四年七月三日当裁判所に提出したもので、右訴状には、右弁護士に対する昭和三四年五月一〇日附の原告高山美智子および小松芳太郎の各委任状が添付されていることおよび小松芳太郎は昭和三二年一二月一八日より昭和三四年一一月二五日まで原告高山章の後見人であつたことを各認めることができる。

(2)  右二通の委任状成立に争のない丙第八号証、参加人代表者本人の供述および証人吉田一枝の供述の一部を綜合すれば、弁護士吉田一枝は昭和三四年五月頃、大阪市西区江戸堀上通一丁目一六番地所在の参加人会社の事務所において原告高山章の後見人小松芳太郎、原告高山美智子参加人代表者本人らと会見し、原告高山章の後見人小松芳太郎および原告高山美智子より被告を相手方として別紙目録記載各不動産について、その所有権が原告らに属することの確認等を求める訴の提起方の委任を受け、その場において原告高山美智子は、前記同人名義の委任状に自署し、その名下の印は右小松芳太郎において捺印し、小松芳太郎は、原告高山章の後見人として前記同人名義の委任状に署名捺印して、それぞれ右弁護士に交付したものであることを認めることができ、右認定に反する原告本人高山美智子の供述および証人吉田一枝の供述の一部は、たやすく措信できない。

(3)  右認定によれば弁護士吉田一枝は右本訴訟事件の訴訟代理権を原告高山章の後見人小松芳太郎および原告高山美智子より有効に授与されていたもので、同弁護士は、原告高山美智子および原告高山章の後見人高山美智子(高山美智子は昭和三五年一月八日後見人に就職した昭和三五年一月二〇日附戸籍謄本参照)より当裁判所に、解任届が提出された昭和三七年三月三日まで、右原告両名のため、有効に訴の提起等の訴訟行為をなす代理権を有していたものであるといわなければならず、原告らの右弁護士に右本訴訟事件の訴訟代理を委任したことはない旨の主張は採用できない。

二、次に、原告らは、昭和三四年(ワ)第二九七九号本訴訟事件を取下げ、被告らはこれに同意したのに、参加人はこれに異議を申立てたので、この点について検討する。

(1)  原告高山美智子が昭和三四年九月二九日当裁判所に対して、右事件の訴を取下げる旨の書面を提出し、被告が昭和三四年一〇月二〇日午前一〇時の第三回口頭弁論期日において、これに同意する旨を陳述し、次いで原告高山章の後見人高山美智子が昭和三五年二月四日当裁判所に対して、右事件の原告高山章の訴も取下げる旨の書面を提出し、被告が昭和三五年三月二八日午前一〇時の第六回口頭弁論期日において、これに同意する旨を陳述したこと並びに参加人の本件参加は民訴法第七一条の当事者参加であることは本件記録によつて認めることができる。

(2)  思うに民訴法第七一条が同法第六二条を準用する精神より見て本訴訟に対し当事者参加があつた後に本訴訟の訴を取下げるには被告の同意の外に、尚参加人の同意をも必要とするかの如く考えられないこともないが、民訴法第七二条では、本訴訟の原告が訴訟より脱退するには、被告の承諾をもつて足り参加人の承諾は必要でないものと解せられ、参加人は参加訴訟において、本訴訟の当事者双方に対して既判力ある判決を得れば足り、本訴訟の処分について何等の不利益をも受けないものであるから本訴訟の訴を取下げるについては被告の同意があれば足り、参加人の同意は要しないものと解すべきである。

(3)  そうとすれば、本件において前記の如く原告らが本訴訟を取下げ、被告がこれに同意した以上、これについて参加人の異議があつても、右異議に拘らず本訴訟は、終了したものであるといわなければならず、右本訴訟の終了により参加訴訟のみが通常の共同訴訟として存続しているわけである。本件においては、右本訴訟が終了したか否かについて当事者間に争があるものというべくそれが終了の旨を宣言するを相当と考え主文第一項のとおり判決する。

三、別紙目録記載各不動産に対し、大阪法務局今宮出張所昭和三一年一一月一六日受附第二四九八一号をもつて、同年七月五日の売買を原因とし、取得者を被告とする所有権移転登記がなされていることは当事者間に争のないところである。参加人は、右各登記は、その所有者であつた訴外高山シヅの意思によらずその原因を欠く無効のものである旨主張するのでこの点について判断する。

(1)  登記簿上の所有名義人は反証のないかぎり、その不動産を所有するものと推定すべきである(最高判例集第一三巻第一号第一頁)ところ、口頭弁論の全趣旨および証拠調の結果によるも、右推定を覆すことはできない。即ち、

(イ)  被告が右移転登記を受ける際に、大阪法務局今宮出張所に提出された所有権移転登記申請書(丙第五号証の一)に添付の訴外高山シヅの委任状(丙第五号証の四)に押捺された印鑑および同委任状添付の印鑑証明書(丙第五号証の五)に押捺の印鑑が右訴外人が所轄の大阪市浪速区長に届出ていた印鑑(丙第六号証の四)と相違することは証人太田政広の供述によつて認めることができ右認定に反する証拠はないけれども成立に争のない丙第五号証の五および原告本人高山美智子の供述を綜合すれば右委任状および同委任状添付の印鑑証明書に押捺された印鑑もまた、訴外高山シヅが当時所持していた、同訴外人の印鑑であつたことを認めることができ、右認定に反する証人小松芳太郎の供述はたやすく措信できず、他に右認定に反する証拠はないので、右移転登記に使用された訴外高山シヅの印鑑が、同訴外人が所轄区役所に届出た印鑑と相違していても、これをもつて、右移転登記申請が、右訴外人の意思によらない登記申請であるということはできない。

(ロ)  丙第六号証の三の高山シヅ名下の捺印は成立に争のない丙第五号証の五および原告高山美智子本人の供述によつて訴外高山シヅの印鑑によるものであることが認められるので、右丙第六号証の三は真正に成立したものと推定され、右丙第六号証の三に証人太田政広および被告本人の各供述を綜合すれば、訴外徳井ノブは、別紙目録記載各不動産の所有名義を訴外高山シヅより被告に移転するために要する訴外高山シヅの印鑑証明書の交付を受けるべく前記丙第五号証の四の委任状押捺の訴外高山シヅの印鑑を持つて大阪市浪速区役所に赴き、同所係員より、印鑑証明書の用紙の交付を受けてこれに右印鑑を押捺して、これを右係員に差出して右係員より丙第五号証の五の印鑑証明書の交付を受けたものであることを認定することができ、右認定に反する証拠はない。右丙第五号証の五の印鑑証明書に押捺された印鑑は、訴外高山シヅが大阪市浪速区長に届出ていた印鑑(丙第六号証の四)と相違するものであることは前記(イ)のとおりであるから、訴外高山シヅは、自己の届出た印鑑を知つている筈であり、同訴外人が、その意思にもとづいて別紙目録記載各不動産の所有名義を被告に移転するために要する同訴外人の印鑑証明書の交付を受けることを訴外徳井ノブに依頼したのであれば、まさか、届出てない印鑑を訴外徳井ノブに交付する筈はないだろうとも考えられないことはないが、飜つて印鑑証明書の交付を受けに出向いた訴外徳井ノブの身になつて考えるならば訴外徳井ノブが右届出ていない印鑑をもつて新に訴外高山シヅの印鑑届出をする場合であるなら格別であるが、既に届け済みの印鑑証明書の交付を求めに出向いたのであり、如何なる印鑑が届け出られているかを知らずにあり合せの印鑑を、押捺して印鑑証明書の交付を求めるとは、考えられないところであるから訴外徳井ノブは訴外高山シヅより右印鑑が、届け済みの印鑑である旨を告げられて、訴外高山シヅよりこれが交付を受けたものであると考えるのが自然である。右に反する証人小松芳太郎の供述は措信できない。

右によれば、被告ないし訴外徳井ノブが訴外高山シヅの不知の間に、前記委任状押捺の印鑑を冐用したということはできない。

(ハ)  証人小松芳太郎の供述によれば、右移転登記のなされた昭和三一年一一月一六日の二日程後に、訴外小松芳太郎が別紙目録記載各不動産が、被告名義に所有権移転登記されたことを知り、その事を訴外高山シヅに話したところ、同訴外人は、非常に驚いた態度を示し、同訴外人に対し、右移転登記を承諾したことはない旨を語り、右訴外小松芳太郎と訴外高山シヅとは同年同月二〇日頃相携えて大阪法務局今宮出張所に、右移転登記申請書を閲覧に赴き、右不動産を取返す態勢を示したことを認めることができ右認定に反する証拠はない。また証人小松芳太郎の供述によれば、訴外小松芳太郎と訴外高山シヅとは昭和三一年三月頃より交際を始め、同年一〇月三〇日に内縁の夫婦となつて別紙目録記載家屋において同棲したことが認められ、(右認定に反する証人菊江正一および被告本人の各供述は措信できない)、右認定によると、前記移転登記は、右訴外人らが内縁の夫婦となつて漸く半月程経過したに過ぎない当時のことで、訴外高山シヅがその居住家屋等の所有名義を、被告に移転したことを新夫である訴外小松芳太郎より問いただされて、素直に真実を告白できず、これを隠すために訴外小松芳太郎に対し、前記態度に出ることも不自然ではないと思われるので、訴件高山シヅが前記態度に出たことをもつて、前記移転登記が、同訴外人の意思によらないものであるとすることはできない。

(ニ)  成立に争のない丙第五号証の一、三によれば、被告が別紙目録記載各不動産について訴外高山シヅより移転登記を受けるに当り、その登記申請書に右不動産中土地の権利証書は添付させたが建物については、保証書をもつて権利証書に代えたことが認められるので、被告は、訴外高山シヅより右建物に関する権利証書の交付を受けなかつたものと認められる(右認定に反する証拠はない)が、被告が訴外高山シヅより右建物の権利証書の交付を受けなかつたことをもつて、直に右建物に関する被告への移転登記が、右訴外人の意思によらないものであるということはできず、また証人小松芳太郎は、訴外高山シヅより右建物の権利証書は所持しているが、土地の権利証書は盗まれた旨を告げられた旨供述し、右供述は、建物の権利証書の所在が判明しないので、たやすく措信できないが仮りに右供述が真実であるとしても、訴外高山シヅが被告に対し、何かの都合で土地のみの権利証書を交付したとも考えられるし、前記(ハ)の理由により、訴外高山シヅが、右土地の権利証書を被告に交付しておきながら訴外小松芳太郎には、殊更ら、盗まれた旨を告げたかも知れないから、右証人小松芳太郎の供述をもつても、被告に対する別紙目録記載各不動産についての所有権移転が訴外高山シヅの意思によらないものであるということはできない。

(ホ)  証人小松芳太郎の供述中被告と訴外高山シヅとが肉体関係があつたのに、同訴外人が被告を裏切つて訴外小松芳太郎と内縁関係を結んだため、被告がそれを恨み訴外高山シヅに復讐するために、同訴外人に無断で別紙目録記載各不動産の所有名義を被告に移転した旨の供述はたやすく措信できず、その他訴外高山シヅより被告に対する右所有権移転が虚偽表示であることを認めるに足る証拠もない。

(2)  よつて別紙目録記載各不動産の所有者は被告であるといわなければならず、従つて物権の排他性よりして参加人にその所有権は属さないものというべく参加人の本参加請求中原告らおよび被告に対して、右各不動産が参加人の所有であることの確認を求める部分は失当として棄却するの外なく、また参加人が被告に対して右各不動産に対する大阪法務局今宮出張所昭和三一年一一月一六日受附第二四九八一号をもつて被告のためになされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める参加人の請求も理由がなく、棄却しなければならない。

四、参加人は原告より貸金債権金七〇〇、〇〇〇円の支払に代えて昭和三二年一二月三〇日別紙目録記載各不動産の給付を受けて、その所有権を取得した旨主張するので、この点について判断する。

(1)  別紙目録記載各不動産がもと訴外高山シヅの所有に属していたこと、および原告高山美智子が右訴外人の長女にして、原告高山章が、その長男であり、右訴外人が昭和三二年八月六日死亡し、右原告らがその相続人として、右訴外人の権利義務を承継したことはいずれも当事者間に争のないところである。

(2)  証人小松芳太郎の供述および同供述によつて、少くとも同証人作成部分は真正に成立したものと認められる丙第一、二号証成立に争のない丙第一一号証を綜合すれば、昭和三二年一二月三〇日当時は原告両名は、未成年者にして、訴外小松芳太郎が右原告両名の後見人に就職していた時代であり、原告らは、当時参加人に対して金七〇〇、〇〇〇円位の借受金債務を負担していたので原告らの後見人小松芳太郎は同日参加人に対して、右借受金の支払に代えて別紙目録記載各不動産の所有権を給付することを約したことを認定することができ右認定に反する原告高山美智子本人の供述は、措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定によると、右訴外小松芳太郎は原告らの後見人であるから同訴外人が原告らの後見人としてなした意思表示は、特別の事情のない限り、その本人である原告らに対してその効力を生ずるもので右特別の事情の存在についてはこれを認むべきものがないから、原告らは、昭和三二年一二月三〇日に別紙目録記載各不動産をその負担する借受金債務の代物弁済として参加人に給付したものであると、いわなければならず、原告らは特段の事情のない限り右代物弁済契約に伴い参加人に対し、別紙目録記載各不動産について右代物弁済を原因として、参加人のために所有権移転登記手続をなすべき義務を負うものである。

(3)  然しながら、右各不動産の所有権はその所有者であつた訴外亡高山シヅより、その生前に被告に譲渡されたものであること第三項記載のとおりであり、右訴外人が昭和三二年八月六日死亡し、原告らがその権利義務を承継したとしても、原告らは右各不動産の所有権を相続するに由なく、原告らが右代物弁済した昭和三二年一二月三〇日当時には、右各不動産の所有権を有しておらず、その所有権は被告に属していたものである。してみれば、原告らは、他人の権利をもつて代物弁済したものであるから、原告らは被告より各不動産の所有権を取得した上、参加人に対し、前記代物弁済を原因として、参加人のために所有権移転登記手続をなすべき義務を負うものといわなければならない。従つて参加人の原告らに対する本参加請求中、右各不動産について被告より、その所有権を取得した上昭和三二年一二月三〇日の代物弁済を原因として参加人のために所有権移転登記手続をなすことを求める範囲内においては理由があるから、これを認容すべきも、その相続登記を求める部分を含めてその余の部分は失当として棄却を免れない。

五、叙上の理由により、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条ないし第九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 常安政夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例